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第57話 焦げた食パンとヨーグルト

last update publish date: 2026-06-16 20:57:45

 朝、仮部屋のテーブルには、焦げた食パンとヨーグルトが並んでいた。

 焦がしたのは朔弥さんだ。

 御門の家なら、朝食は黙っていても出てきた。

 カップの位置も、果物の切り方も、誰かが先に決めていた。

 ここには使用人がいない。

 パンは自分たちで焼くし、ゴミ袋の替えも自分たちで探す。

 昨日の夜、朔弥さんは洗剤の場所がわからず、私は加湿器の水を床にこぼした。

 不便だ。

 でも、誰かの手できれいに囲われているより、ずっとのびのびできた。

「社長」

「言うな」

「火加減は支配できなかったんですね」

「トースターに支配権はない」

 真面目な顔で返されて、私は笑ってしまった。

 すると朔弥さんは、ほんの少しだけ目を細めた。

 私の笑い声を聞いている、というより、大事なものを見るような目だった。

 そんな風に見られて、身体のどこかが甘く痺れた。

 焦げたパンの匂いも、冷めかけたコーヒーも、その朝だけはなぜか悪くなかった。

 臨時総会。

 損害賠償。

 身の程。

 御門家で聞いた言葉を思い出す。

 それでも、焦げたパンで笑える。

 朔弥さんは焦げた
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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第122話 こちらがその気になれば、御門などいつでも潰せる

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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第3話 それ以上、口を開いたら

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  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第2話 離婚の朝、知らない香りがした

     朔也さんは一晩中帰ってこなかった。  私が送ったメッセージも、既読のまま返事はなかった。  翌日、会社の空気は昨日より少しだけ悪かった。  数字が悪いわけでも、会議が荒れているわけでもない。ただ、人の視線だけが妙に湿っている。そういう日の会社は面倒だ。問題が表に出る前に、誰かが勝手に物語を作っている。  エレベーターを降りた瞬間、すれ違った総務の二人が、私を見るでもなく声を落とした。 「やっぱり、社長とは昔からそういう感じだったんだ」 「二人、本当にお似合いだよね」 「でも今さら入るんだ。しかもブランド戦略って」  一条澄麗。  帰国した、若くて、家柄もよくて、米国の名門

  • 子どもはまだかと責められ、夫には離婚を告げられましたので、都合のいい妻は卒業します   第1話 子どもの名前は、もう決められていた

     ――子どもは、まだなの。  御門家の朝食卓で、その問いは天気の話みたいな顔で落ちてきた。  問いというより、確認だ。いつまで待たせるつもりなのか、と。銀のスプーンが白い皿に触れる小さな音のほうが、よほどやさしい。 「仕事が忙しいのはわかるけれど、女には期限がありますからね」  義母の冴子は穏やかに微笑んだ。  露骨に責める人より、こういう人のほうが厄介だ。やさしい声のまま、逃げ場のないところだけを刺してくる。  隣では、義祖母の千鶴が新聞を畳み、こちらも見ずに口を開いた。 「会社を支えたことは評価しているわ。でもね、真尋さん。妻の仕事は、それだけじゃないの」  喉の奥が細くな

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